精霊鉱脈 -アイム-16

writton by 萩梓

「――なあ、このアイムさんは、変な子供、だったか?」
 三回転程ごろごろと転がりながら、アイムが問いかけた。
 再び訪れた、眠れない夜。前と違うのは、ここが焚き火の前ではなく、清潔なベッドの上だということくらいだ。フォルクスがすやすやと眠っているのも同じ。
「あのね」
 槍だから眠らない筈の、ラヴェルは嘆く。
「そもそもあたしは、あたしが『発生』する前のことを何も知らないのよ」
「わーかってるけどさあー」
「あんた、またあのこと考えてるでしょ。やめときなさい、寝不足で明日苦労するだけだから」
「それもわーかって……」
「おやすみ、アイム」
 ごとりと音を立て、床に横たわってしまうラヴェル。
「発生、ねー……」
 今度は天井に問うてみる。ラヴェル。彼女、がいつから自分と一緒に居るのか、正確にはいつから喋る槍なんてものに成り果てたのか、実のところ、アイムは知らない。

 ――槍、か。
 どうしたって思い出してしまう、あの日のこと。

 昨日と同じ今日が来る筈だった。
 両親を待つ日々。一人きりの朝。昼、町の子と喧嘩しては、慰めてくれる存在を求める夜。
 十歳のアイムはいつものように、暗い家の裏庭に呼びかけた。
「せいれいさーん……」
 だがその日に限って、返事が無い。
 星の下に出て行く。黒い羽根に、母親が縫ってくれたマント。傍目には五、六歳程に見える小さい身体。成長が他の子より遅いのが、エルフもどきの血を引くからだというのを、勿論当時は誰も知らない。
 砂地の真ん中で、足を止める。
「せいれいさん、いないの?」
 そこには「何も無かった」。正確には空虚な、いや異様な「何も無い」気配だけが、「あった」。
 昨日まで精霊がいた場所の、地面に刻まれていたのは、小さな池くらいの大きさの、丸い「サークル」。
 それを見た途端にアイムは、精霊さん、と呼びかけることも出来なくなった。何かが頭に無理矢理入ってくるような感覚。同時に、内から湧き起こる咆哮に似た衝動。
 ……それから、どれくらい経ったのか。優しくも冷たくも無い声がして、誰かに揺すり起こされたのは分かった。
「アイム・ミラーフェルト、はお前だな? これを届けに来た」
 顔を起こすと、目の前に差し出されていたのは、父親が持って出かけた槍。記憶と違うのは、それが折れていること。
「落ち着いて聞きなさい。お前の両親は戦ジョウデメイヨノセンシヲ――――」
 その先を聞ける訳が無い。
 叫びがやっと、声になった。空気を切り裂くような音が響く中……叫んで叫んで、狂ってしまう寸前で視界が戻ると、望まない来客はアイムの正面で倒れていた。手を伸ばすと、触れたのは冷たい赤い液体。
 よろよろと、立ち上がる。
 ……精霊さんを、探さなきゃ。
 背後の骸から、ぽっと炎が浮かんだ。

 やがて。
 轟々と燃える砂漠の町を、彷徨っている有翼の子供が一人きり。
「……せいれいさーん! どこー?!」
 その手には、折れた槍。
 全身を染めるのは、夥しい返り血。

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