Introduction-カディナの夢-

混沌の海に、大いなる神の欠片が落ちた。

大神カディナの欠片は、やがて大地になり、大地に宿る幾多の神、数多の精霊、あらゆる生命、万物の根幹となる。

精霊の内、元素とも言える、全ての源になった、多くには見えない力。
魔法・魔術と呼ばれる力。
神の力と呼ばれる力。

いくらかが、カディナの欠片から満ちあふれ、様々な物を形成した、と、言われている。

そして、空には蒼穹と大陽、そして、夜空に時を刻む月が浮かんだ。
浮かぶまでの、月の無い時が60日。やがて現れる、黒。紅、碧、蒼、そして、白。一巡をして、また月の無い60日に戻る。

幾つかの種が、やがて何かの衝動を得て、あるいは知恵を得て、大地を駆ける。
虫、植物、獣。

そして、目立っていくのは、知恵を持ち、文化・文明をもった種。
人間・エルフ・ドワーフ・有翼人・獣人、未だ知られぬ、あるいは歴史に埋もれた、様々な。

かつて、彼らは大陸の覇権を争ったという。
圧倒的に有利だったのは、圧倒的な数で勝った、人間族。
大陸は一見、彼らの覇権の元にある。
そして、人を中心に形成された世界で長い乱世を経て、一定の形を成したのが、およそ千年ほど前である、と、言われている。

大陸の西側を占めるは、ラディスハイド王国。海沿いから平原、大陸を区切るような山岳地帯までを国境として、聖都ラミスブルクと、カディナの娘ラミスサイヤを主神とする大教会を要する。

対をなすかの如く、東側を占めるのは、アーデルリアス王国。魔術・魔法を基盤とし、また、多くの者に知識を学び、開かせる学術都市を持ち、王都サーリアと学術都市クレスブルクの双子都市を中心とした国家として君臨する。

砂漠地帯から唐突な感すらある森を領土の大半として、南へ向かい平原を、そして、その向こうにある山脈の向こうには、また独自の文化を築いた国があるというが、公式な行き来は無い、と、いうことになっている。

二国の間には、平原地帯と砂漠地帯が存在するが、この辺りは平穏に見えて、時に小領主が台頭し、ときに幾つかをまとめた大領主や王国が生まれて、消えて、と、未だ混沌としつつも、大陸の両端にある魔術国家・神力国家とそれぞれに交流を持ち、土地や家によっては、この巨大な二国を超える歴史をもつ勢力も存在する。

大神カディナは、何故に、かくも混沌たる欠片を落としたもうたのか。

大陸で唯一、共通して認識されている伝説は語る。
この欠片の地を、カディナ神は、眺めているのだと。
それは、かの神にとっては、ただの夢の欠片のごときものだとしても。

そんな大陸で、物語は始まる。
小さな、小さな、カディナの夢の欠片、住まう人々にとっては現実である、カーディナル大陸、と名付けられた大陸を中心とした世界のなかで。