気づけば地面に放り出される格好になっていた。
相変わらずの光る洞窟の壁。濃厚な精霊の気配。ここから採掘される石は装飾のみならず、高給なランタンや魔法を扱う石、様々な物に重宝されている。
崩れたと思った場所は、よく見れば、〝封じられた〟というのが似合うようにフォルクスには見えた。
「なんであんたが掴んでんだよ!」
アイムがトーアにがなり立てている。
「このアイムさんはなぁ、あんたじゃ無くて……」
「まぁまぁ、落ち着いて……はくれそうにないなぁ」
トーアは嘆息しつつ言う。
「彼らは関係者だから無事だろうけど、僕は知ってるだけの部外者だから身を守らないとねぇ」
その口調はのほほんとしている。
「無事……って」
アイムは辺りを見渡す。彼らをここに導いたドワーフと彼を兄と呼んだ者の姿は見当たらない。
黙ったまま、フォルクスは立ち上がり、近くの壁を軽く叩いた。カラリと音を立てて薄い膜が剥がれるようになって、そこに二人は保護されるように居た。
「ほら、ね」
トーアが自慢げに言う。
「……なんで判ったの? フォルクス」
アイムの手元の槍、ラヴェルが問う。
「……なんとなく?」
フォルクスにもよく判らない。本当に、なんとなく。
「あれは? あの精霊っぽい馬は? あと、さっき崩れたのは何だったんだ?」
アイムが怒濤のように問う。
「……えっと、アレは……」
軽く腕を組む。なんとなく、考えるというより内面の何かに問うような気分だった。
「えっと……」
まず、あの場は崩れたのではなく、ここに存在した特別な精霊が全て離れたので、彼らが帰るまで封印されたようだ。こればかりは、一種の神域に近い場所の特殊作用としか言い様がない。そして、それが何故フォルクスに判るのかすら、今はよくわからない。
そして、彼らの前に現れたモノは……
軽く、フォルクスは手を開いた。あのときとは比べものにならない小さな、有角の馬のような姿をして光る存在が現れた。
「……ルミスシャイン、っていうらしい。」
「彼らは強奪者には憑かない。自ら主を選び、そういう存在に出会えない場合はこの地に眠っている。わりと高位の精霊だよ。君は、誇っていい」
トーアが言う。部外者を自称するわりには詳しい。
「……彼〝ら〟?」
問うたのはラヴェル。そして応えたのは……
「……複数なら、たぶん、もう一つはザイン様の精霊だと思う」
フォルクス。
「リゼッタを通して何度かお世話になってるから、あの気配はよく知ってる。ルミスシャインの気配とよく似ている……」
「……えーっと、誰?」
アイムが首をかしげる。それはそうだ。会ったことも無い、と、思われる。
「……一度だけ、精霊の方は見ているはずだ。伝令に使われていた蝶々っぽいの」
「あー! たしかにアレも精霊さんだったな。っていうか、しょぼい?」
酷い言いようである。まぁ、アレしか見ていないのだから仕方ないか、とフォルクスは嘆息する。
「……使いこなして長いからああいうことも出来るだけだと思う。
アーデルリアスではわりと有名な話だ。ザイン様の現役時代は剣とソーサラーの魔法に加えてあの精霊の力で英雄と言われた功績を残して、姉王を助け、今代の王も有事にはあの方を頼ることもある……らしい」
曰く、暗殺者をはねのける光の壁。
曰く、逆臣を捉えた魔法と光る乙女。
曰く、戦場を指揮し、あらゆる物を使って駆け抜けた猛者。
ただし、フォルクスたちの世代の大半は隠遁の状況にあり、その英名も伝承や物語になりつつある。
「懐かしいねぇ……」
トーアがつぶやく。
「ラディスハイドの魔法騎士ベルナート、アーデルリアスの英雄ザイン王弟殿下。昔はお二人とも、武勇に名を馳せたもんさ。ま、今はどちらの国も平和っぽいからそんなに目立ってないけどねぇ」
二人は同年代だし会った事もあるし、わりと話があったみたいだよ、と、トーアは言う。
「……ってことは、ベルナートおじちゃんも精霊さんを……?」
「いや、それはない。ベルナートの場合、本来は完全なソーサラーの資質しかない、はずなんだけどねぇ……」
彼の前半生の環境がそれを許さなかった。結果、彼の魔法の資質の一部を体力や剣技に降る、という、不可能ではないが、かなり難しいことをやってのけて〝神の国の魔法騎士〟の異名をとるまでになったのである。
「ザイン閣下は王家のお生まれだからね。彼は彼でいろいろ厳しい環境の中、剣術を鍛えて、魔法の力も高くて、姉君に王としての政務を任せて、それを補佐しつつ、魔法騎士団長を務められた。聞いた話では、それでも力不足だと思ったところにここの精霊の一柱を宿されたとかなんとか」
おもいっきり伝聞だけどねー、とケラケラ笑う。
「……下手すると一部、一般人に聞かせていい話じゃないものが混じってるきがするんですが?」
フォルクスは胡散臭そうな目でトーアを見る。トーアは笑った。
「君、きっぱりはっきり、関係者に組み込まれたから。いつまでも一般人面しないように」
まじか、と、目を覆う。
「あ、アイムもね。もっとも、君はこっちとはちょっと違うはずだけど」
「……あんた、しらねーの?」
アイムにまで胡散臭そうな目で見られて、トーアは指で頬かいた。
「……結構複雑そう、ってことしか、僕にはわからないなぁ。でも……」
この先は、妙に独り言じみている。
「ルミスシャインの主が精霊王の欠片持ち。ナイディシャインの主は先王の弟。もう一人、欠片持ちがいて、あの里が小さいながら動き出して……あの彼女の一族も動きが見えて……きな臭いなぁ」
フォルクスとアイムには、きっぱりはっきり、意味が判らない。それでもトーアは気にしていない。
漠然と、近く何かがある可能性があるのだろう、と思った。
「……なぁ、村で呑まないか? 意味不明すぎて、一度休みたい」
フォルクスが言う。
「……飲み食いするか……トーアってヤツに金ださせて」
アイムが賛同する。
「……僕も混ぜてくれるならいいよー」
トーアは快諾した。
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