ステンダー山脈-フォルクス-14

writton by 龍魔幻

「やぁっっっっと終わったー!!」
 フォルクスは叫んで、ぐいっと伸びをする。〝迷子〟になったあと、フォルクスが風の精霊に頼みに頼み込む、といった体で正規の道筋に戻り、彼に託された商取引伝言を回り終わった。
 この間、アイムもしっかり用心棒をしていた。
 事前に思っていたよりも山賊が多かった。それをラヴェルで叩きのめして、余裕があれば近くの村に託し、あまり余裕がなければふん縛って山道に転がしておいた。一言添えた手紙をつけておいたので、ステンダー領王家の治安維持隊が機能していれば、回収してくれることだろう。
 一度だけ、どうやら大人しく帰っていたらしいエーリックからアイム宛てに回収と謝礼のウェノが飛来した。
「山のあっち側はいいの?」とラヴェルが問う。フォルクスは肩をすくめた。
「ラディスハイドの内側は貴族相手が多いし、他の人員を派遣してるよ」
 そもそもの話、本来、他の地区もフォルクスである必要はあまりない。家は長兄が継ぐし、彼にはすでに何人か子供がいる。もともと、フォルクスが幼かった頃やアカデミーに在学していた頃に動いていた家人もいる。
「おふくろがさ、俺とグリフィス兄貴を会わせたがって、仕方ないからこの二、三年は付き合ってんだよ」
 別に仲がいいわけでもないのになぁ、と、フォルクスは苦笑する。母親の理想像はおそらく、銀髪の可愛らしい末っ子と、婿養子に出て肩身が狭いであろう次兄とが仲良く手を取り合うこと、なのだろうが。
「……誰の話だ?」
「おふくろをには俺がそう見えてるんだろうなぁ……」……フォルクスはかわいげの無いことを自覚しているし、グリフィスも別に肩身が狭いといったふうでもないのだが。母心というのは複雑な物らしい。
 特に、彼の母親はフォルクスが生まれたとき、彼の真実の姿、極端な色素の欠落、という現実をみるのをやめてしまった。それでも、彼女は家業には欠くべかざる人だったので、周囲がそれに併せて来た、という、ややこしい経緯がある。
「……お前が可愛げなんざないのはこのアイムさんにも判る。幻想だな」
「そ。幻想……まぁ、不都合のない範囲で付き合ってくさ……アカデミー出たあと、養ってもらってることだし」
 本当は、アカデミーに研究員として残る道もあった。それでも、母親を放っておけない、という感情が勝ってしまった。
「……でもさ。それがなかったらアイム、最初にひろってもらえなくて行き倒れのままだったんじゃない?」
「……ぐ……すると、このアイムさんもフォルクスのおふくろさんの縁で助かったってことか……」
 ……世の中、判らないものである。

 ふと、フォルクスが気配を探る仕草をした。
「また山賊か?」
「……いや……なんか、違うような……」
 強いて言えば精霊か……ただ、フォルクスのよく知っている精霊の気配とは何かがちがう。かといって、全く知らないものでもない。
 ふと、側に違和感を感じた。何かに誘われるような、奇妙な声。
 フォルクスはアイムを振り返る。アイムと、そしてラヴェルもまた、同じ感覚にあるようだ。
「……誘われてみるか」
 小さく、フォルクスはつぶやいた。