少しばかりアイムの強引さを恨めしく思ったフォルクスだったが、ドワーフに誘われた先の光景で、一気に吹っ飛んでしまった。
「……精霊石……」
半ば唖然とした呟きが漏れる。
誘われた先はドワーフの鉱山の一つである。ただし、暗い通路を松明などで照らしてはなく、数歩入った先から洞窟自体が光を発していた。少なくともフォルクスは、こうした風景の可能性を知識でしか知らなかった。アーデルリアスにあるアカデミーに実験素材としてごく少数が保管されている、小さな欠片を見たことがある程度である。
精霊が宿っていると言われ、またなまじの宝石よりも希少とされる〝精霊石〟。産出地は極秘と聞いた事があった。
その極秘の場所に、まさに立っているのだ。
「あんたらを、大地の御方さまが呼んでいる」
ドワーフがくぐもった声で言う。
「俺たち?」
「主は、たぶん白い人間の方のあんただ。ただ、そっちの……何かが混ざった黒いのもご指名だ」
「……混ざったって……」
しばらくは「すげー」を連呼していたアイムが微妙な反応をする。
「だいぶ前に落ちてきた、お前の爺さんとかいった極楽鳥みたいなののことじゃね?」
心当たりとしてはそれくらいしかないのだが、言い方が酷く杜撰である。
それよりも、フォルクスはいろいろな奇妙な気配に気を取られていた。
この、いわば全体が精霊に満ちた鉱山と、それに呼応するようなフォルクスに宿る精霊たちの感覚的なざわめき。
さらに、それとは別に、このドワーフ以外の何かが自分たちを見ているような気配がする、ような気がした。
「……アレが、新たな主かしら」
〝それ〟は小さくつぶやいた。
「精霊王の分け御霊の一つ……それをここの主が選んだのなら……面倒だわ」
姿は小さなエルフ、といったふうだが、その気配はこの精霊鉱脈に紛れるほどの精霊のそれである。この精霊の〝匂い〟まみれの環境ではアイムが気づけないのも無理はない。
―― とはいえ。邪魔をしても無駄なのは、前のことで判っているのよね…… ――
精霊ともエルフともつかない何者かは嘆息する。
それならば、報告が先だろうか。
黒翼のエルフもどき。二人の精霊王の分け御霊を宿した存在。そして〝あの男〟に宿ったモノ。
さらには、新たに片割れが気に入った者であるとすれば。
―― 波乱の予兆かもしれない ――
そっ、と、彼女はその場を去った。
何かの歯車が動き出す。
そのささやかな動きは、フォルクスたちのいるラディスハイドとは大陸の逆側、アーデルリアスであった。
アーデルリアス王国の誇る魔法騎士団の王都本拠でざわめきが起こる。
キーデル侯爵領をどうにか守り切った帰還兵がようやく落ち着き始めた頃、めったに王城近辺に姿を現すことがなくなった、三代前の魔法騎士団長、現王の叔父、ザイン・サーリア・アスレイトスが姿を現した。
「話がある。現団長アルティア・サルトスはあるか?」
呼ばわる声に、さっと跪くのは二十歳ほどの女性。
「ここに」
自分の方をクレスブルクの自邸に呼べばいいのに、と胸の内に思いつつ、アルティアは拝跪する。
若干十七才でその才気を買われて入団し、翌年には団長となった、まだ少女の面影すら見える、現魔法騎士団長である。
「人払いを」
ザインはそう、命じた。
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