ステンダー山脈 -アイム-14

writton by 萩梓

 精霊のような、奇妙な声はフォルクスの側でずっと続いている。
 だから厄介である。何となれば、この道。アイムのせいで迷い込んだ山道よりも、更に幅が狭い。
 と言うより既に、崖道。
 後ろを歩くアイムは、鼻歌さえ歌っている。そもそも体力もバランス感覚も、研究者未満だったフォルクスとは違うのはまあ、分かるが。
 次第に腹が立ってきたところで、不意に彼の足元が崩れた。
 ぐしゃん。がらがら。重力に引っ張られる感覚。
 周囲の精霊に助けを求めるより早く、左腕が褐色の手にぐいと掴まれた。
 黒い翼がぶらぶら揺れる。
「フォルクス!」
 見上げれば、アイムのもう片方の手は、岩肌につっかえ棒のように引っかかったラヴェルを辛うじて握っている。
 その羽根は飾りかよ、と口にしかけたところで、アイムが飛べないと散々言っていたのを思い出した。
「いいから早く登ってきなさい! 二人ぶら下げて飛ぶだなんて、幾らあたしでも無理よ!」

 ……どうにかこうにか、フォルクスがアイムの背にしがみつき、崩れた場所の向こうまで岩を登ったのだが。
「アイム、わざとじゃ無いよな?」
 自分は分かる。誘われてみようと思って、来ているのだから。しかし文句の一つ言わず、崖っぷちを平気で歩いているアイムは。
「わざとじゃねーし、迷ってもいねーよ。このアイムさんは。向こうで精霊さんのいい匂いがするからさー」
 それだけなら、迷ってるのと大差は無い。常識人のラヴェルに助けを求めようとすると。
「あたしはほら、精霊魔法とか使えないし。まあ、何となくよ」
 フォルクスが、がっくりと垂れた首を少し上げると、
「……うわ」
 それ、は進行方向に唐突に現れた。

 フォルクスの腰くらいの高さに、アイムより大きめの禿頭。目と耳の辺りにぐるぐると巻き付いた真っ赤な布。戦士よりも術使いのように見える簡素な服。
「……こんな処に、ドワーフ?」
 ステンダー山脈で、ドワーフは珍しくは無い。しかしここは鉱山では無い、筈。
「ついて来いって、言ってんじゃねーの?」
 呑気なアイムの声に、聞こえているかいないのか、禿男? は口だけでにやりと笑った。