「静かな夜だなー……」
「嘘をつけ嘘を」
ほんの数時間前は賊相手に暴れていた。更にその前は町外れでぶっ倒れていた。そんなアイムだが、今はラヴェルを傍らに、甲板でひたすら大瓶を煽っている。見かけは酒だが、実際の処は申し訳程度にアルコールが入っているだけの、甘い飲み物である。
「月がきれーだなー……」
ほの白い月が、頭上で光る。
ちなみにフォルクスはまだ船に戻っていなかったりするが、余り深くは考えないところだけは酔っ払いらしい。
「……ねえ、アイム、この護衛の仕事が終わったら、あんたどうするのよ」
過保護だが酔えない槍がぽつりと呟く。
「んー……そーだなー、貰った金で、もー暫く旅でもするかー……」
「デートキルの処には戻らなくても良いの?」
この大陸では、ただの旅人の地位は驚くほど低い。家出同然とはいえ、一応帰る場所があるアイムはかなり、恵まれた方である。
「……あのくそじじいがモーロクしない内は、戻れるかよ」
「くそじじいじゃ無くて、ウィラムおじいさまでしょ」
「おじいさまー? あんな奴がー?」
よりによって自分を結婚させようとした男の名前に、アイムは思わず声を荒げた。
「デートキルの奥さんのお父さんなんだから、おじいさまでしょ?」
だが、反論の言葉が見つからない。
「……おじいさまで思い出したけど、ルージュ、さん? が言ってたラディスハイド? で、探しものするのはどうすんのよ」
酒瓶は、空になりつつある。
「暇がありゃ探してみるさー。フォルクス巻き込む話じゃねーし」
勿論、アイムのこんな思惑の通りにはいかないのだが、それはまだ先の話。
――――夢を見た。
『ずっとここに居ても良いんだよ』
赤子のように泣きじゃくる自分。
優しい言葉。
優しい家族。
遠い思い出。
夢の、終わり。
独りの、呟き。
「……ベルナートおじちゃん」