ヴォールファート領 -アイム- 11

writton by 萩梓

「知らないだって?!」
 宿屋に帰って来るなりフォルクスの部屋に飛び込んで、十数分してやっとエーリックとオシルスの元にやって来たアイムは、こんな非難の声を二人から浴びるのである。
「実行犯追っておいて、何で黒幕の名前も聞いて来ないんですか!」
「そうだよ、お前一体何しに行ったんだ?」
 アイムはぽりぽりと毛の無い頭を掻いた。
「……だーって、このアイムさんはそんなの、興味ねーし。あー、すっげー疲れたし、フォルクスも大丈夫そーだから、お菓子でも食って寝るわー」
「あーのーでーすーねー!」
 怒り心頭のオシルス。
「おいラヴェルちゃん、ここ突っ込むとこじゃねぇ?」
 常識人……槍だが……の相棒を呼んだのはエーリックだが、何故かこちらの返事は無い。
 よくよく見ると、アイムは脂汗をかいている。
「アイムさん……もしかして、〝歌い〟ましたか?」
 〝漆黒の悪魔〟の必殺技に、死神の歌、と呼ばれるものがあったのをオシルスは辛うじて思い出した。聞くと必ず死んでしまうから、どんな歌なのかは誰も知らない。ただ、噂だけ。
「あー、歌った。殺さねーよーにすっごいセーブしたから、すっごい疲れた」
 貴族二人は顔を見合わせた。
「……良いですか、魔術師の後ろにいる人物が誰か分からないということは、またバーム家の三男が狙われるかも知れない、ということなんですよ」
 オシルスはハンカチをアイムに渡しながら、
「カミッロ!」
 と、実はずっと側で控えていた、男の名を呼んだ。
「アイムさん、彼を連れて、例の魔術師の処に戻ってください。治癒師も連れて行った方が良いでしょうか」
「はい、ぼっちゃん」
 獣人の男が小さく頭を下げる。
「えー、折角半殺しにしたのにー」
「お菓子、一つ食べてからで良いですから」
 アイムは白い歯を見せた。オシルスの采配に感心しながらも、漆黒って絶対朝三暮四にひっかかるタイプだよな、とエーリックは思ったのだった。

 カミッロが治癒師を手配してくる間に、オシルスはアイムにそっと話しかける。
「どうして貴方が侯爵の弟に同行しているんですか。見たところ、接点があるようには思えないのですが」
 大きなクッキーを大事そうに食べ終わったアイムは、
「行き倒れになったのを、助けて貰った。あいつの護衛の仕事を引き受けた」
 とだけ、答えた。
「それだけで、漆黒の悪魔ともあろう元暗殺者か、フォルクス・バームに固執する理由になるとは思えないのですが」
 アイムが微笑んだ。
「残念だが、あいつはそう思ってねーんだけどな、友達だから」
 オシルスとエーリックの気のせいだったかも知れないが、その横顔は、少しだけ哀しそうにも見えた。